法律書評ブログ

読んだ法律関係の本について書評を書いていきます。

1.岡本茂樹『反省させると犯罪者になります』

衝撃的なタイトルです。一般的な感覚としては、悪いことをしたときに、きちんと反省を促すことで、悪いことを繰り返さないようになると思いがちですが、本書はそのような考え方に警鐘を鳴らしています。

 

反省させると犯罪者になります (新潮新書)

反省させると犯罪者になります (新潮新書)

 

 

筆者は中高教員、教育センターでのカウンセラー、大学教員を経て、刑務所のスーパーバイザー、篤志面接委員として活動していました。

本書は、それぞれの立場で経験したことをもとに、受刑者を更生させるためにどうすべきかという点を論じています。

 

 【特徴1:豊富な経験に基づく考察】

筆者はもともと受刑者の更生に関わっていたわけではなく、もともとは教員やカウンセラーとして生徒指導や学生相談を行っていました。

その後、筆者は受刑者更生に関わることになりましたが、上記の指導や相談の経験をもとに、「反省させない」支援のあり方を確立させていきました。

本書では、筆者の経験が余すことなく語られています。実際に現場で受刑者と関わり合いながら支援のあり方を模索してきた筆者の経験は、とても具体的で非常に参考になります。

 

詳しくは実際に本を読んでいただきたいのですが、1点だけ注意しておくと、筆者は受刑者の反省が全く不要であると主張しているわけではありません(この点、タイトルを読んだだけで誤解がないようにしなければなりません)。受刑者が事件を起こした原点を見つめ、自分の内面と向き合うことがまずは必要で、その段階に至る前にただ形式的に反省を求めることは、形式的な反省にとどまってしまい、更生につながらないというのが筆者の主張です。

 

被疑者や被告人の段階では、事件を起こした(当然、まだ無罪が推定されている段階ではありますが)ばかりであることが多く、その段階で量刑事情として反省を求めることの危うさを実感しました。

 

【特徴2:被害者心理と更生支援とを分けて考えている】

筆者のメインの主張からは少し離れるのですが、この点も本書の特徴であると感じました。

被害者が加害者を絶対に許せないと感じることも当然であり、その点を重視すれば加害者に反省を促すことは当然のやり方であるようにも考えられます。しかし、加害者が真に更生することを考えれば、ひたすら反省を促すということは逆効果になりかねません。この点については筆者も自覚的であり、

“ずるいと思われるかもしれませんが、支援者の立場と被害者の立場をいっしょにして論じることは不可能です。”

としています(214頁)。

 

社会全体としてみれば、受刑者が再び罪を犯さないことは利益であり、そのためにはどうすればよいかという観点から更生を考えることが重要だと思います。しかし、被害者の立場からは、どうしても受け入れられない部分が出てきてしまうと思います。被害者の気持ちは受け止めなければなりませんが、更生を考える上では被害者の気持ちは一旦切り離して考えなくてはならないと思います(筆者の考えからも、最終的には受刑者に反省を求めるので、あくまでも「一旦」切り離すということが大事なのだと思います)。

 

【終わりに】

受刑者の更生を考える上でぜひ読んでおきたい本です。また、今は厳罰化が叫ばれる時代ですが、それが望ましいことなのかを考える際の貴重な資料でもあると思います。新書で手軽に読むことができるので、ぜひ読んでみてください。